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■はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5類への移行に伴い,陽性者の把握は従来の全数把握から定点観測になり,また,診療を行う医療機関も拡大している.各都道府県で確保されていた病棟も徐々に縮小しているが,他方,沖縄県等で感染の拡大が続き,医療提供体制がひっ迫する状況が生じている(2023年7月1日時点).陽性患者の入院調整および退院調整は,従来,保健所が行っていたが,現在,その役割は各医療機関にゆだねられており,調整困難例が頻発している.ただし,各都道府県の関係者も3年間の経験をもとに,対策をとっており,また,高齢者やハイリスク者以外は軽症で済む者も多く,さらにモルヌピラビルなどの治療薬も利用可能になり,そして何よりも各医療機関での治療経験の蓄積もあり,臨床現場は全体としては比較的落ち着いて対応できているように見える.もちろん,沖縄県のような流行が他地域でも生じるのか,現時点では予想できず,その拡大の状況によっては,また,新たに医療機関における対応策について検討することになるのかもしれない.
今回の流行はわが国の医療提供体制の問題点を明らかにしたと筆者は考えている.例えば,救急医療提供体制と高齢者救急の在り方,医療機関間の連携,介護施設における医療対応,施設間の医療情報共有の仕組み,リスクコミュニケーションの在り方などである.筆者は厚生労働科学研究の枠組みで,米国,英国,フランス,ドイツのCOVID-19対策の比較研究を行い,その成果を書籍にまとめた1).結論から言えば,諸外国にわが国が採用すべきベストの仕組みがあるわけではない.その意味で,「特定の国がわが国よりもシステムとして優れている」というような論の持ち方は適当ではない.しかし,わが国よりも数倍規模の大きなパンデミックを経験した諸外国の対応の経緯からわが国が学ぶべき点は多いとも考えている.上記の研究は,コロナ下で海外の実地調査ができない環境であったため,文献調査とオンラインで当該国の関係者へのインタビューを行ったものだった.この研究で調べたことが,現場でどのくらい実践されたのかについて,研究終了後も関心を持ち続けていたところ,2023年6月にフランスを実地調査する機会を持つことができた.そこで得た知見は,大変有用なものであった.そこで,本稿ではフランスの民間病院におけるCOVID-19対応事例を紹介してみたい.
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