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■はじめに:包括的てんかん診療と遠隔医療
聖隷浜松病院では2008年にてんかんセンターを開設した.運営の理念は「4つの垣根」の撤廃である.すなわち,「①年齢」を区別せず小児から成人までを対象とし,「②治療法」は薬物治療から外科治療まで一貫して切れ目なく,「③スタッフ」は医師・コメディカル・事務職員の多職種が一体化し,「④施設」は多科にわたる診療科の敷居を超えて一つの施設内で治療を完結させる,いわゆる「包括的てんかん診療」である1).
遠隔医療は第5の垣根である「⑤距離」の制約を解消する効力をもつ.てんかん診療は問診による診断と,その結果に基づく薬物療法が主体を成す.遠く離れていてもビデオチャットを通じて対面診療と遜色ない問診を実施することが可能である.脳波,脳画像などの検査も重要であるが,毎回,実施するわけではない.この点で,てんかんは遠隔医療に適している2).
現状のてんかん診療は多くの課題を抱えている.そもそも,てんかんは診断が難しい.専門医は問診技術に長けており,診断から治療への一連の流れについてトレーニングを受けているが,同等の診療レベルを非専門医に要求することは難しい.そして治療法は多様である.まずは薬物療法が主体となるが,抗てんかん薬の種類は多岐にわたり,どの薬剤を選ぶべきか判断は難しい.さらに並行して外科治療,食事療法も考慮する.このような多様な選択肢の中から適切な治療法を実施する必要がある.特に,てんかん外科手術の適応に関する判断は非専門医にとってハードルが高い.てんかん専門医は全国に700人あまりで絶対数が少ない上に地域的偏在が極端であるため,相談の機会に恵まれない患者は多い.
このような,1)診断の難易度が高い,2)治療選択が多様,3)専門医の不足と地域的偏在,といったてんかん診療の課題に対して,遠隔医療は一つの解決策となり得る.1),2)の課題についててんかん専門医からの助言は有用であるが,3)専門医の不足・偏在のために患者の居住地によってはアクセスが難しい場合もある.この問題を解決するためには専門医養成教育の充実が求められるが,喫緊の課題である距離の壁を克服する手段としての遠隔医療は一考に値する.
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