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■はじめに:ACOとは何か
高齢者人口の増大と医療技術の進歩は複数の慢性疾患と医療・介護・生活の複合ニーズを持った患者の増加をもたらす.こうした状況に従来の個別患者対応に基づいた医療・介護サービスの提供体制で対応することは難しいという認識に基づき,米国では集団全体を対象としたポピュレーションアプローチの仕組みの構築が進んでいる.その代表的なものがACO(Accountable Care Organization)である.
ACOは,医師,病院,ナーシングホームその他の医療サービス提供者がグループを形成し,相互にケア調整を行うことにより,患者により質の高い医療を提供する仕組みである(図1).ケア調整の目的は,糖尿病,疼痛管理など主として慢性疾患を持つ患者に対して,適時適切な医療を提供するとともに,不必要な重複医療を回避し,かつ,医療過誤を防止することである.ACOの形成はCMS(Center for Medicare/Medicaid Service)による認証が必要である.
ACOの基本的理念はPayment by Results (結果に基づく支払い)である.この背景にはMedicareにおける支出の増大は医療行為単位(狭義のFee for Service:FFS)あるいは診断群分類単位の包括支払いであるにしても行われたサービスの量に応じて支払いを行ってきた(広義の)FFSであったことによると考えられた.この問題に対応するために,ACOがカバーする人口集団が使う医療費を予見的に設定し(これをBenchmarkingという),Medicare患者に対する質の高い医療の提供と効率的な医療費節減の両方が成功した場合,節減費用相当の一定割合のシェアを行い,逆に,これが達成できずに過剰に医療費がかかってしまった場合,損失費用相当の一定割合の償還が得られないというリスクを負う仕組みが導入された(これをMedicare Shared Saving Model:MSSMという).
ここでポイントとなるのが医療費予測の手法である.米国では疾病管理ビジネスの展開に合わせて,医療費の予測を行うPrediction modelの開発が行われてきており,MSSMの導入に当たっては医療費予測の手法の選択が行われた.最終的にボストン大学で開発されたDiagnostic Cost Group- Hierarchical Clinical Categories(DCG-HCC)が採用されCMS-HCCとなった.CMS-HCCに基づく医療費予測の手法については,すでに本誌で紹介しているので,詳細についてはそれを参照いただきたい1).
MSSMでは年度ごとにCMS-HCCに基づく医療支出予測値(Benchmark)が設定され,MedicareとACOは節約額および損失に関する契約を結ぶ(図2).例えばBenchmark値の上下2%については利益および損失額のシェアは行わず,それを超える節約ができた場合は50%ずつ節約額(利益)をシェア,逆にそれを超える損失が出た場合はそれを半分ずつ負担するという契約が行われることになる.
事前に支出額を設定した上で,利益および損失をシェアする仕組みを導入することで,サービス提供者により効率的な医療を行うインセンティブを持たせるというのがMSSMの基本的な枠組みである.すなわち支払総額をあらかじめ設定した上で,その枠組み内での医療提供をACO間で競わせるという管理競争Managed Competitionの仕組みが導入されたのである.
このような支払い方式が将来的にわが国で採用される可能性については,筆者はわからない.しかしながら,治療というエピソード単位で個々の患者に対応するのではなく,ICTを活用して生活習慣の改善も含めて総合的に被保険者に関わっていく仕組みは,現在その推進が計画されているPHR(Personal Health Record)の活用の在り方を考える上で参考になると思われる.そこで,本稿では米国ニューヨーク市ブロンクス区にあるMontefiore Medical CenterによるACOの取り組みを紹介してみたい.
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