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■はじめに
平成28(2016)年度中に全ての都道府県で地域医療構想(以下,構想)の策定が終わり,現在,各地域で地域医療構想調整会議(以下,調整会議)が始まっている.調整会議における議論に資する目的で厚生労働省が作成し,各都道府県に配布しているデータブックには人口動態や病床数,傷病構造の現状と将来推計などの基本的な情報が含まれており,ほとんどの都道府県の構想ではこのデータを用いた記載が行われている.この意味で,今回の地域医療構想は,これまでの医療計画などに比較して,より詳細な検討が可能となっている.しかしながら,構想の記述内容には都道府県で大きな差があり,個々の医療機関の今後の経営の在り方を考えるためには,不十分な点も少なからずある.これについては,今後優良事例などを参考に,各都道府県がさらに内容の充実を図っていく必要がある.
その上で,今後構想およびそれに続く地域医療計画を実効性のあるものにしていくための課題は,記述されている情報をいかに各施設の施設計画に反映させるかであろう.各病院が今後どのような方針で経営を行っていくのかという明確な計画がない状況では,いくら調整会議で議論を行っても,具体的な施策には結びつきにくい.公的病院などが,急性期病床の一部を地域包括ケア病床などに転換し一般病床におけるケアミックス化を行うことに対する民間病院関係者からの反対意見が出され,調整会議で建設的な議論が行いにくい状況もあると聞く.しかしながら,上記のようなケースで民間病院の側から地域医療の在り方について具体的な提案も行われるような例は少ない.こうした状況を改善するためには,公私にかかわらず地域内の病院の全てが今後の経営に関する明確な計画を持つ必要がある.
フランスでは地域医療計画に基づいて,各施設が当該地方の医療を管轄する地方医療庁(Agence Régionale de Santé:ARS)と複数年計画を締結し,各施設の施設計画と地方医療計画の整合性が図られる仕組みが導入されている1).ここでポイントとなるのが各施設が作成する施設計画である.これは国が提供する各種統計資料をもとに各施設が自施設のある地域の傷病構造を分析し,自施設の今後のサービス提供に関する方針(他施設との連携も含む)とその工程表を数値目標と共に記述するものである.計画に基づいて,各施設はARSと交渉を行い,必要であればその内容を修正した後,契約を結び,その実行状況がARSによってモニタリングされる.こうした枠組みが設定されたことで,各施設のマネジメント能力は向上し,また地域医療計画の実効性も大きく高まっている.また,各施設のこうした取り組みを支援するために,国は全国医療・社会医療機関支援機構(ANAP)を設立し,計画策定のための技術的な支援を行っている.
今回,わが国においても地域医療構想に関連して公的医療機関等2025プラン(以下,2025プラン)が導入されている.これはフランスの医療計画における施設計画に相当するものである.筆者はこのプランをフランスの施設計画のような強制力の強いものにすることには反対である.しかし,このプランの枠組みを活用して,各施設が自施設の在り方を具体的に考える体制を作ることは,社会保障財政が厳しい今日の状況下で,各施設が適切な経営を行っていくために非常に有用であると考えている.その意味で,今回導入された2025プランの枠組みを用いて,公私にかかわらず全ての病院が自施設の今後の経営方針を検討することが有用であると考える.そこで,これから連載2回にわたって,この2025プランの活用方法について,福岡県の地域医療構想2)を用いながら筆者の私見を述べたい.
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