小特集 都立病院の財政再建をめぐって
ニューヨーク市立病院の閉鎖をめぐる諸問題
前田 信雄
1
1国立公衆衛生院社会保障室
pp.484-489
発行日 1981年6月1日
Published Date 1981/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541207482
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
1979年11月4日朝,米国公衆衛生学会の開会式のあいさつのために,ニューヨーク市長コチをはじめ学会長や連邦厚生教育長官ハリスらが登壇する.席に着いて,いよいよ市長のあいさつ,というときに,フロアに横断幕をもった一団が入場してくる.その途端,壇上にかけ上がった三人の医師らから市長の顔めがけて卵が投げられる.すぐそばに厚生教育長官がいるところで,もみ合いと怒声が数分続いた.学会員でもある"狼籍者"が退場されられた後,ニューヨーク市立病院閉鎖反対の抗議をする一隊も静かに学会場から出ていくことになる.
3,500人の出席者というマンモス学会の開会式用に歓迎の辞を用意してきたはずのコチ市長は,目を真赤にし興奮しながら,"こういう無法者がいるからニューヨークは悪くなる一方だ""市立病院閉鎖は断固実施する""16ある市立病院は役立たずである"と演説した.やじと怒号のなかで…….開会式が始まる前から,今日は何かありそうだ,という声が周りでささやかれてはいたが,このような事情に全くうとかった日本からの出席者の筆者にとって,このアカデミズムの場での事件は,何から何まで異様であり,大きなハプニングにしか見えなかった.しかし,このニューヨーク市で開かれた第107回公衆衛生学会のシンポジウムと報告を聞いてみて,この市の病院閉鎖問題の根は深く,ニードの高い貧困者への医療のあり方を問う極めて重要な問題であることが分かりかけてきた.
Copyright © 1981, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.