特集 私立病院のゆくえ
わが国の私立病院の歴史的展望
酒井 シヅ
1
1順天堂大学・医史学
pp.22-27
発行日 1974年3月1日
Published Date 1974/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541205290
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幕末までの日本の病院は宗教的動機から生まれた施薬院とか,江戸時代の小石川養生所にみるように人道的立場から出された建言を幕府が採用して開設したものといったようにすべて慈善病院の類であった.それだけに公共的な性格を帯びて,政変などで世情が変わると,たちまちそれらの施設も衰微してしまうのであった.
ところが,幕末もぎりぎりになると,西洋文化は日本の国内にかなり浸透してきて,医療の面でも西洋医学の影響を強く受けた.そして,長崎の海軍伝習所で医学の伝習が始まると,教師ポンペは臨床教育のための病院の設立を要求し,ここにはじめて近代的な病院が誕生した.その後,各地に病院が誕生し,そこに国内からはもちろん,外国人の医師も招いて,当時としては高い水準の医療を行なった.そこではその医師に学ぼうと医学校が付属し,医育機関として活用された.一方,病院では良い治療が受けられるというので,患者数は増加の一途をたどり,それに伴って病院数も増えていった.明治初期に開設された多くの病院は,施療患者を受け入れることを規則に書いているが,実際には中流階級以上の患者が大部分を占め,極貧の者には行きにくい場所になってしまった.
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