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事務長日記
檜原 謙
pp.84-86
発行日 1963年9月1日
Published Date 1963/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541202203
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7月5日(金)
いま新聞の週間ベストセラーズの中に入っている「物理学入門」という本を通勤の途中で読んでいるが,非常に面白い。その話を,今朝の朝食会の話題にして見た。
例えば,アインシュタインの有名な「知識よりも,イマジネーションのほうが,いっそう大切である」という言葉は「夢なきところ民は滅ぶ」というソロモンの箴言に通ずるものを感ずるが,そういう言葉だとか,ボーアがパウリの新理論への批判に対して述べた,「私は,パウリ教授の理論が気違いじみていることは認めます。しかし,この理論が正しいという可能性があると考えられるほど,十分に気違いじみているかどうか問題です。」という言葉などを読むとそこに現代物理学の驚異的進歩の秘密があるような気がして,心の高揚を禁ずることが出来ない。物理学は実験上説明出来ない事実にぶつかるたびに従来の物の見方への執着を断念して新しい見方を創造し,そこに飛躍的進展への契機を見出して来たという。病院理解あるいは病院運営の上でもそれと同じことが言えるのではなかろうか。不確定性理論や相対性理論の根本的考え方は病院を管理する者の立場にとっても必ずしも無縁のものではない。スペキュレーションは文字どおり,空理であると同時に投機でもあるわけだ。そこからはどんな新しいものが生み出されて来ないとも限らない。われわれも空理空論に大いに心を遊ばせて見ようではないか。
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