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ライ患者の結婚(1)
森 幹郎
1
1国立ライ療養所邑久光明園
pp.53-61
発行日 1956年2月1日
Published Date 1956/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541201070
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序言
ライ療養所内に於て療養者同志が互いに結婚して療養生活をしている,と言つたら,驚く人がいるかもしれないが,併し,珍しい事でもない。半永久的に隔離収容せられねばならなかつた今日までのライ療養所に於ては,むしろ,当然のことのようにさえ思われていたようである。ということは,ライ不治ということの裏返し的表現でもあつたのだが……。
明治中葉日本のライ患者救済のことに当つた外国のキリスト教宣教師たちは,患者同志の結婚を許さなかつたようである。その理由は患者同志の結婚を不浄,不潔視していたからであろうと思われる。又,キリスト教に於ては一般に避妊,堕胎を神の前に罪悪としているから,結婚の結果生れ出ずる子の処置に困つて,結婚そのものをも禁じていたのかもしれない。リイ女史が群馬県草津温泉のライ患者救済のことに手を染めた動機も,生活のために結婚を強いられている若き女子患者の姿に憐みの情を催したからである,と言われている。その頃のライ病院は男子舎,女子舎の区別がきわめてきびしく,これを破つた者は放逐せられたこともあつたようである。併し性慾は人間の基本的な本能であり,自ら欲してならいざ知らず,他律的に結婚を禁じられるということは,少数の選ばれた者以外には,不自然きわまりないことである。このような不自然を強要しつつ,患者を平静に収容しておくことは殆んど不可能でさえあつた。道徳の素乱,秩序の崩壊はむしろ何人にも容易に想像される所であろう。
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