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病院史概説(14)
岩佐 潔
1
1厚生省病院管理研修所
pp.65-69
発行日 1955年5月1日
Published Date 1955/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200959
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XV.イギリスにおける病院発達に対する考察
1)英国の社会状況と18世紀における病院設立運動の原因
イギリスに於ては1538年ヘンリー8世によつてカトリツク系の病院が閉鎖されて以来はロンドン市に僅な病院が残つた以外は殆んど全国に亘つて無病院の状態となつた。丁度古い封建勢力に代つて商工業が発展を始めた時代で人々は次第に自由放任の思想に傾き病院を造り,病人の世話をすると言う様なことは余り関心をひかなかつた。しかし隷属から自由への動きは又同時に生活維持の安定から不安定への動きであつた。中世的秩序が壊れて近代的秩序に移行するに当つて古い紐帯を切られた不安定な労働者の群が現われて来た。それは農場が統合されて牧地に変つてゆくことにより先ず生じ,16世紀から17世紀に到つて彼等の貧窮は重大な問題となつてきた。これに対して,1601年救貧法が設定されたが,その医療施設は全く不十分であつたことは先に述べた。所で17世紀から18世紀にかけて一般人口が急激に増加すると同時に貧窮者も加遠度的に増加した。しかしかかる社会現象は18世紀後半における産業革命時代のそれの様にきわだつた激烈なものではなく隠かな一般的繁栄の蔭にかくれた少数の特に注意深い博愛主義の人々の目にだけやつととまつた現象に過ぎなかつた。
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