--------------------
病院史概説(4)
岩佐 潔
pp.53-56
発行日 1954年8月1日
Published Date 1954/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200851
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
IV.初期キリスト教病院
1)ローマ文化とキリスト教の意義
ローマ人は自らすぐれた思想や芸術を生まなかつた。ローマの精神文化を代表するヴアージルの詩,キケロの思想,セネカの哲学などもギリシア人に及ばず,むしろこれを模倣したものであると言われているガレノスの医学もまた同様であつた。すなわち彼等はヘレニズムを通じて受取つたギリシア文化を既成品としてそのまま継承したのであつた。なぜならローマ人の社会は元来ギリシアと同様に都市国家的な奴隷制の社会であつたので同質の土壌の上に成長したギリシア文化は,ヘレニズムを通過して若干異質物を混じたとはいえ殆んどそのままローマ人の要求に合したのであつた。
従つてローマの最大の文化史的意義はそれ以前のあらゆる古代文明をギリシア文化を中心として自己のうちに包括しそれを広い領土に普及させまた後世に伝えた点にある。この意味でローマこそヨーロツパ文明の基礎を作つたものであるが,それに対してはキリスト教会が大きな役割をつとめている。それのみならずキリスト教は直接病院の発達を助け,看護の性格を特長づけ,中世を通じ更に近世に到るまで我々の主題としている問題に多くの影響を与えている。
Copyright © 1954, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.