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病院と医学研究活動
守屋 博
1
1國立東京第一病院管理部
pp.4-8
発行日 1955年4月1日
Published Date 1955/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200942
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医師と研究意欲
現代医学の発達の歴史をかえり見ると,ある時代には必ずしも科学的と云えないで,むしろ主観的,哲学的,或はまじない的と云わざるを得なかつた時代があつた。これが壮麗な近代医学の科学的組織を作り上げるまでには多数の先人医師のたゆまぬ努力を必要としたのであつた。多数の不明,不治の病気が一つずつその病理を明らかにし,しかも近代科学的手法をもつて,治癒される様になりつつあるのである。この様な進歩は過去何千年継続され,しかもこの100年間に加速度的に進歩したのであるが,しかもなお未知,未治の分野は前面に無限に拡つているのである。この仕事は凡ての医師に課せられた義務であり,魅力である。無論これらの仕事は,臨床医家のみで遂行出来るものではない。研究のみに挺身出来る基礎医学者も,その又,外層をなす科学者,工学者も協力せねばならぬのだが,医学窮極の目的が診断治療にあるならば,病人自身に接し得る臨床医家がその中核にならねば,近代科学の手法と云う事は出来ぬのである。
一方臨床医の立場から見ても,医学が完全に完成されたものであれば,日常の作業は単に機械的に行えばよい。極端に云えば,計算器のボタンを押す如くそこに一定の答を出し得るのであるが,実際の臨床はその様なものではない。個々の症例によつてあらゆる変化があり,あらゆる推測を必要とするのである。
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