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岡西雅子さんの御尊父は高名な結核専門家であり,晩年には医学史的な観点からのご寄稿を結核予防会も何度か頂戴し,ご逝去後は長年にわたり蒐集された結核関連の切手を結核予防会にご寄贈くださった.それを頂戴しにご自宅に伺い,雅子さんにもお目にかかる機会があり,ご自身もご不自由の中,パーキンソン病に悩むお父上を長年在宅で介護されたことは承知していたが,今回ご著書を拝読して,自らも難治疾患である膠原病との長年の闘いを続けながら,というよりは共生しながら,お父上を在宅で介護された,凄まじいとしか言いようのない生き様に圧倒された.お父上にも何度か苛立った対応をしながら,すぐにそれを反省し,介護に戻られるのは,悟りきった聖人に近い心境であろうか.それが雅子さんの周辺に多くの素晴らしい方々が集まってくる契機となったのではないだろうか.往診を厭わず,最善の治療と処置をしてくれた家庭医,牧師さんご夫婦,泊まり込んでお父上の在宅介護に協力してくれた方々,在宅介護がかなり進んだ今日でも,このようなチームの誕生は考えられない.
慢性疾患に罹患することは,人間を,そして人生を深く考える良い機会となる.一昔前の結核の療養はその典型的な一例であり,若者に多かった結核患者が,生命の危険に曝されながら,人生について,人間について考える中から,多くの優れた文芸作品や芸術が生まれた.膠原病も難治の慢性疾患であり,免疫学の研究がこれほど進んできても,自身に対する過剰な反応を制御する方法は,十分には解明されていない.ステロイドは過剰反応を抑える有力な手段であるが,副作用が避けられない.ほとんど動けない状態で2回も長期間入院された雅子さんが,ご自分で歩くことができ,父上の介護もある程度可能になるまでに回復された背景には,強い意志でつらいリハビリに取り組んだ努力があった.これらの経験を読むことによって,同じ病に悩む者が大いに勇気づけられるであろう.
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