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「このおにぎりが1つ売れれば,30円の利益が上がる」.1つひとつの商品の利幅がいくらかを把握することは,小売業を営む場合の基本中の基本であろう.医療がサービス業と言われるようになって久しいが,これまで医療機関では,「今回のAさんの虫垂炎3日間の入院は5万円の黒字,Bさんは3万円の赤字」というような各入院患者個別の利益,あるいは損益がどの程度であるかを,把握しないままで経営を続けてきた.他の多くの業界から見れば信じ難い話であるが,これまで医療界では自院のコスト構造が不明瞭なままに病院の経営が行われ,また多くの医療関係者は「どの疾患の患者さんは収益性が高く,どの疾患の患者さんの収益性が低いか」をほとんど考えずに医療の提供を行ってきた.
今回の「疾病間の医療費配分は適正か」という原稿の依頼を昨年受けたなら,間違いなくお断りしたと思う.この課題を論ずるには,①複数の医療機関からの,②同じ基準で測定したという2つの条件を満たした「1人ひとりの患者の収支データ」が必要になる.これらのデータが存在すれば,各患者の収支を疾病別に集計することで今回の課題に応えることができる.しかし先に述べたように,日本の医療機関には,そもそも今回の調査に不可欠な「1人ひとりの患者の収支データ」は,ほとんど存在しなかった.まして,①と②を満たした収支データの入手は不可能に近い状況にある.しかし今回の依頼を受ける少し前に,「同一基準で,1人ひとりの患者の収支データ」を得ることが可能になりそうな『コストマトリックス』というシステムに出会い,このシステムがどうにか使用に耐えうるものでありそうだという見込みが立ったので,今回の原稿の依頼を受けることにした.
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