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I.はじめに
血管収縮剤は古くから耳鼻咽喉科領域において用いられてきた。その代表的なものにはアドレナリン,エフェドリンなどがある。これらは交感神経,ことにα受容系の刺激剤であつて,粘膜表面に塗布すると著明な血管収縮作用があり,充血,浮腫を一時的に消褪する。アドレナリンなど古典的血管収縮剤は作用時間が短いが,その後にフェニレフリンや硝酸ナファゾリンなどの作用が持続性のものが開発された。これらの薬剤は始めに医師によつて手術操作,診断,治療に使用された。1943年にFabricant1)が硝酸ナファゾリンを紹介した頃より,血管収縮剤が点鼻薬として広く市販されることになつた。治療効果や症状の改善が一時的であるにせよ著明なことからその使用量は年を追つて増加した。1969年度における米国の使用高は6,300万ドルであつたという2)。わが国において学術誌上に掲載された血管収縮剤の薬効に関する論文は1954年から現在までにおよそ43編ある。これらの報告が明らかにしたように,血管収縮剤はきわめて有効な薬剤であり,治療効果も高く,耳鼻咽喉科領域には不可欠なものとなつた。しかし,これら有益な薬剤も使用方法によつては不都合な作用を示すことが知られている。それは使用後の反応性充血,長期間の使用にみる一種の慢性鼻炎様病変である3)。稀にみる重篤な副作用は幼児における中枢神経系の抑制作用である。のちに検討するが血管収縮剤の副作用についての報告は諸外国に多く,わが国のものは梶川ら4)と平野ら5)6)にみる。今回の報告は,著者の最近5年間の臨床で得られた印象によるもので,長期間にわたり成人が医師の指示なくして点鼻薬を使用した際にみる病変に関するものである。これは慢性浮腫性病変を特徴とする一種の血管運動調節の失調状態であろうと思う。医原性疾患ではあるが,使用を中止することにより快方に向かうのが幸いである。
Indiscriminate use of commercially available nose drops causes nasal findings similar to severe degree of vasomotor rhinitis. Typical cases seen in the past five years are presented.
Neurovascular dysfunction is caused by the prolonged abuse of the nose drops. Sustained vasoconstriction is followed by after-congestion which forms the vicious circle for frequent application of the drug. The natural rythm of shrinking and swelling of the nasal mucosa will be eventually replaced by the artificial intervals determined by the drug effectivity.
Discontinuation of the drug is the only effective means by which this condition may be overcome. The healing process may be further assisted by administration of antihistminics and synthesized ephedrin. To ensure the patient of his discontinuation of the drug, psychosomatic approach may also be necessary. A firm belief on the part of the physician and an unfailing patient-doctor relationship are all the more important in curing the bad habit.
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