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I.はじめに
近年感染症における起因菌の推移としては,球菌類に比して桿菌類が増加しつつあることは既に全般的な傾向として認められていることではあるが,殊にその生理解剖学的原因からも他科領域に比しては従来から桿菌感染の機会が多かつた尿路感染症ではこの傾向は一層激しく,球菌と桿菌の比率においては完全にその位置を逆転しておるといつても良い。例えば本邦でも東大の尿路感染症起因菌検査の報告によれば,1955年桿菌類が48.2%であつたものが1962年では77.3%と著しい増加率を示しており,又後述もするが最近の当科の統計でも病的桿菌類が起因菌の63%を示す様になっておる。
一方これらの起因菌に対する化学療法剤の感受性は年々低下し,換言すれば現今では感染症治療上薬剤耐性を考慮に入れないではおられないことは周知の事実でもある。然もこの薬剤耐性の問題については従来からも起因菌の多数を示したブドウ球菌等に関して極めて多数の研究や報告が見られるのに反し,桿菌類の耐性については梢々もすると等閑視された観がないでもない。勿論このことは全般的な見地から見た場合,従来は球菌類の感染が圧倒的に多かつた為でもあろうが前述もした様に桿菌感染の増加しておる尿路感染症の現状では,その治療に際して桿菌の耐性にも十二分な考慮を払う必要のあることはいうまでもない。従つて日常我々がその治療に難渋する所謂"難治性尿路感染症"についても,それらの起因菌の動態或は薬剤耐性の現状更に結果的には臨床的に最も重要なその治療殊に薬物治療等を検討することは有意義な事と思う。この様な意味で最近6ヵ月間に経験した当科での難治性尿路感染例を中心として前述の諸問題について統計的観察を加味しなからいささか考察してみたい。
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