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結言
牙關緊急は通常其診斷は極めて容易であるが,其治療に當り夫れが原因を探求する事は必ずしも容易でなく,時には誤診の結果其治療方針を誤る事も屡々ある。其理由は單に下顎關節自身の強直のみならず其周邊部の總ての病的變化によりての症状として牙關緊急を惹起し得るを以て其治療に當つては細心の注意を以て其の原因を探求せなければならない。然らば其原因の主なるものとして從來記載せられたるものに,先づ下顎關節自己の疾病として下顎關節の急性及び慢性の炎症例えばロイマチス性關節炎,淋毒性關節炎,化膿性關節炎等である。其他關節自己及び其附近の損傷によつても惹起せらる。女で其附近に於ける種々なる炎症,例えば咬筋其他顎筋の炎症,下顎骨々膜骨髓炎,顎下腺炎,頸部のフレグモーネ,又は智齒難生等がある。其他周圍軟部組織の瘢痕形成並びに潰瘍等に因ることもある。又其他全身疾患の破傷風テクニーの局部症状として咬筋の強直性或は間代性の痙攣を起すこともある。以上の如く牙關緊閉を起すべき素因は多數に存在するも,瘢痕形成なり潰瘍なりは一見して明瞭であり,外傷性のものは其病状によつて判斷し得るし,又急性炎症性のものも其症状比較的顯著なるを以て其診斷容易なるも,慢性疾患によりて牙關緊急が徐々に誘發せられたる際は其原因が果して下顎關節自己に存在するや,或は又周邊組織に存在するや,其診斷の困難なる事が屡々ある。余が茲に報告せんとする1例も牙關緊急が極めて徐々に發來し,顏貌に何等の異變も無く,唯僅かに左側咬筋か瀰蔓性に腫脹し幾分彈力性硬なりしを以て梅毒性の疑いをもち,血液檢査を行いワ氏反應陽性なりしに依り驅梅療法を行い全治せしめ得たるものにして,診斷上甚だ興味あるを以て茲に報告する所以である。
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