- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
緒言
1924年フェスラー氏は12歳の健康少女の左耳翼に外觀上健康表皮に被はれた約榛大稍硬く一ケ所に小開口を有し壓すると此處より脂肪化したる物質の排出ある腫瘍を粉瘤の診斷の下に剔出手術を施行せり。然るに該腫瘍の切斷面に無數の微細な黒色小毛髮あり。而も一ケ所に表皮内飜形成あり腫瘍の中央部迄小空洞を形成しおれり。組織學的所見としては全眞皮が無數の毛根横斷面により占められこれ等毛根は幼若なる毛髮胚腫より比較的生長を遂げた毛根に至る種々の段階を示すも立毛筋は證明し得ず且連續切片を以て是等の毛髮を追求せし所上記の内飜の上皮より發生したものなる事を確定せり。野村一氏は體性25卷12號に2歳男子の患者のやはり左耳翼にポリープ状1.5×0.6×0.5糎全表面は正常表皮を以て被れるもフェスラー氏の症例の如く小開口表皮内飜形成等は認められず硬毛の發生もなき彈力性稍便なる腫瘍を剔出し此れを檢せるに表皮は角化等異常なく全眞皮は毛根の横斷面が無數に存在し毛根は孰れも其横斷面のみを示し幼若なる毛髮胚腫が數多有り其の間に伍して漸次分化發育せる種々なる程度の毛髮を存し皮脂腺と既に完成した毛嚢とを具存するも毛髮の遊離表面に到達したものは皆無にして是等の毛根には孰れに於ても立毛筋を證明するを得ざりき。又フェスラー氏の如く連續切片を作製せしも毛髮の發育方向を探求せるも如何なる部位から發生したか確證を得ざりき。日本皮膚科泌尿器科學雜誌第47卷第5號に太田正雄氏は毛嚢母斑の項目中に母斑の表面に毛が生えて居なくとも組織學的に大小無數の毛嚢塊を而も眞皮のカなり深い所まで幾段かに含有して居るが如き色素母斑があフェスラー氏症例の先天性毛髮腫瘍に似て居ると報告せるも患者に關して詳細な報告なく唯その1例に立毛筋を具備せるものあるも皮脂腺を備へるものは殆ど無く唯1,2局所に小脂肪が發見せられたと報告しあり。
余等は最近36歳の主婦の顔面兩眼瞼を中心とし發したる發毛なき扁平なる腫瘍の組織學的檢査を行ひ,此が所謂毛嚢母斑なる事を見たり。上記の如く毛嚢母斑の報告は極めて稀にして且又本例の如く浸潤性に發生したる例は余等の寡聞未だ此れを知らす依つて此處に報告する次第である。
Copyright © 1948, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.