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Ⅰ.はじめに
発生する臓器にかかわらず腫瘍の治療方針の最終的な判断根拠はその組織学的診断(分類)であり,特に遠隔臓器や付属リンパ節への転移が稀な脳腫瘍においては,いわゆる病期分類による治療方針決定は一般的でなく,腫瘍そのものを正確に診断することが決定的な意味をもつ.その診断の基本が病理組織学であることは他臓器の腫瘍と同様であるが,近年の分子生物学的解析法の発展はさまざまな脳腫瘍における遺伝学的異常の発見に貢献してきた.特に多くの研究がなされたのは膠芽腫に関するものであったが,近年は他の神経膠腫についても多くの研究報告がなされている.
そもそも神経膠腫は同一の診断分類に含まれていても症例間で臨床経過が大きく異なることが稀ならずあり,組織学的診断に限界があるのではないかという問題提起は古くからされてきた.すなわち腫瘍の発生起源(星細胞由来か乏突起膠細胞由来か)や悪性度の判断(特にWHO grade ⅡなのかⅢなのか)が同一の標本を観察した病理医の間でも一致しない場合があるということである1).これを解決すべく遺伝学的解析の臨床的な意義を追究しようという試みは1990年代から欧米で行われるようになり,いまや遺伝子異常の検索は学問的興味の対象から臨床的検査項目に変わり得ることが広く認められるようになっている.すなわち,神経膠腫の遺伝学的な分類が有用と考えられるようになり,従来の形態学に準じた病理組織学的分類を補うためにも,有用な分類法となる可能性が指摘されるようになった.特に最近では神経膠腫におけるイソクエン酸脱水素酵素(isocitrate dehydrogenase:IDH)の変異が予後マーカーとして重要であることが報告される32)など,遺伝学的解析の臨床的有用性は既に確立しており,近く発表されるWHOによる脳腫瘍分類においても神経膠腫の分類法の大きな変化が予想されている26).
本稿では特に神経膠腫に関する病理分類と分子生物学的解析の関係を解説し,脳腫瘍の分子生物学的な特徴と治療法選択との関連性についての考察を提示する.
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