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Ⅰ.はじめに
日本では脳動脈瘤に対する多くのclipping手術が,標準的な側頭筋剝離による前頭側頭開頭術によって施行されている.このgold standardというべき標準的前頭側頭開頭術には,骨片の陥没や側頭筋萎縮に伴う前額部から側頭部にかけての陥没による美容上の問題点の他に,側頭筋障害による開口障害などの機能的な問題点がある.この標準的前頭側頭開頭術に対して,Mainz大学のAlex Perneczkyらのグループは,剃髪することなく眉毛の上を切開(eyebrow skin incision)し,眼窩上に2~3cmのmini-craniotomy (supraorbital keyhole)を作成して脳動脈瘤や脳腫瘍の治療を行う方法を実施している(Perneczky法)7-10).手術用顕微鏡用の強力な光源や神経内視鏡の改善を背景に,keyholeと呼ばれる小開頭を介して頭蓋内深部病変に到達し治療する方法は,“keyhole concept”を土台としたminimally invasive neurosurgeryのひとつとして考えられる7-10).“Keyhole concept”とは,開頭部を鍵穴の大きさにするという意味ではなく,小さな開頭部分を介して深部脳病変に対して十分な治療が可能となりうる“intracranial corridor”を提供しうる,最小限でかつ有効な入り口を“keyhole”と定義するという意味である.
われわれの施設では,数年前より内頸動脈の未破裂脳動脈瘤の一部に対してPerneczky法によるkeyhole clipping術を施行するとともに,Sylvius裂外側部に存在する中大脳動脈瘤に対してはouter canthal skin incisionとpterional keyholeの組み合わせによるclipping術を開発施行し,また前交通動脈瘤に対してはPerneczky法の変法であるsupraorbito-sphenoidal keyholeを用いて未破裂脳動脈瘤の治療を施行してきた4-6).
Keyhole clipping術は,脳血管撮影なし,剃髪なし,ドレーンなし,抗てんかん剤なしで施行される.Keyhole clipping術によって患者の肉体的あるいは神経学的負担は軽減し,最近ではほとんどの患者が術後2~3日目に退院できるようになり,外来にて抜糸を行っている.われわれは,未破裂脳動脈瘤の一部に対してはkeyhole clipping術がひとつの選択肢となり得ることと,この方法が将来overnight surgeryとなり得る可能性があることを実感している.われわれが施行しているkeyhole clipping術は,患者1人1人の術前検査に基づいてkeyholeの場所と大きさなどを決定するという面でtailor-made医療であるとともに,手術器具もkeyhole手術に適したものに改良するなどして使用している.しかしながら,keyhole clipping術で使用される皮膚切開は,通常の開頭術で行われる頭皮部の切開ではなく眼窩周辺部の切開であり,顔面神経の分枝や側頭筋筋膜などの解剖学的知識を必要とする.今回は,前方循環脳動脈瘤に対する3種類のkeyholeを用いたclipping術に必要な解剖,手術方法,手術器具を中心に解説する.
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