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生まれて初めて人体の矢状断画像を見たのは1981年,サンフランシスコ郊外のUCSF研究所であった.所長自ら被験者となったその機械は覆布に隠され,所長が布をめくると巨大な銅線のコイルが現れた.日本では当時名前さえほとんど知られていなかった,「核磁気共鳴画像装置」すなわちMRIを初めて見た時の体験である.当時はポジトロンCTが脚光を浴びていたが,この機械の内に秘めた特性を知れば知る程MRIがより世界中に広まるテクノロジーになることを予感した.帰国後大学勤務となったので,研究室でこのことを啓蒙し誰かこの分野の研究に進むことを上申したが,聞いたこともない機械の話に本当に興味をもってくれる人はいなかった.自分があと5歳若ければ,あるいは自らその分野に進んでいたかもしれなかった.それ程それは衝撃的な一瞬であった.後になって何故私なんかに秘密のヴェールを開けて見せてくれたのだろうという疑問が湧いたが,後にその謎が解けた.私の訪問した時の名刺には「医長」と書いてある裏側に英語への誤訳で“Director of ○○ Hospital”と書いてあったのだ.研究所長は日本から訪問した金持ち病院の若い理事長に完成間近の新型機械を見せれば,後日取引材料に結びつくと考えたに違いない.それから2年経ち,その機械は「GM社MRI」という名で世に送り出された.
それから25年経った今,MRIは日本の病院にくまなく導入された.しかし驚くことに今でもMRIを利用した新しい技術が続々と登場しており,本号の中にも4つの画像に関する論文が掲載されている.その1つは森谷聡男先生の拡散強調画像である.この画像は細胞性浮腫の有無を鑑別することができるため,脳梗塞の急性期に他に先がけて異常が検出される方法として注目されている.一方3.0ステラの高磁場MRIが色々な施設に導入されつつあり,増々精細な画像を提供している.T2を利用したMRI立体画像や脳槽内視鏡画像は佐藤 透先生や大石 誠先生の論文に紹介されているが,その精度は脳神経や細い血管をも顕微鏡手術で実際に観察した光景と同じく抽出できることは驚嘆に値する.また神経の走行を表現可能なtractographyなど解剖学的な画像のみならず,脳の活動部位を知ることのできるfMRI(機能画像)は高次脳機能の活動部位を知る臨床研究の場を提供している.NMRはMRを画像化する以前の代謝を知る研究機器であったが,それを利用して行うMRIスペクトロスコピーは代謝物質の相違から脳腫瘍の悪性度,他疾患との鑑別など画像を越えた物質の性格にまで診断が及んでいる.近い将来には「脳の立体機能画像」や「virtual operation画像」を前にして,患者に手術の説明を行う日も近いと思われる.しかしこのような先端画像の作成には,通常のMRIとは異なった費用と努力が必要である.折角進歩する技術を衰退させないためにも,医療制度がこのようなメリットに引換えられる費用と努力を正当に評価する時期が早く訪れることを望む.
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