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交叉性小脳萎縮の2例について臨床的および組織病理学的検索を行ない,交叉性小脳萎縮の発現機序を皆察した。
第1例は,死亡時43才の主婦で,10年間にわたる右半身に限局した痙攣発作,右半身不全麻痺,健忘失語などの局在症状とともに知能低下を呈した。第2例は,16才の少女で,14才の時化膿性脳膜炎に罹患し,右半側麻痺を主症状とし,軽度の知能低下を来たし,間もなく脳膜炎症状は消退したが,その後約半年の間隔で3回の再発があり,このために死亡した。
剖検により2例とも左大脳半球萎縮とともに,反対側小脳半球萎縮がみとめられた。大脳半球萎縮は,第1例では,側頭葉,頭頂葉,島葉,アンモン角に強く,前頭葉および側頭葉後部にも萎縮があり,第2例では,左前頭葉,中心領および後頭葉の一部に萎縮があつた。皮質下では,2例とも左視床,内包に強い萎縮をみたが,線状体,蒼球,赤核,黒質などの萎縮は顕著ではなかつた。ただ第2例の尾状核は,炎症性変化のため強く萎縮していた。
大脳脚は,第1例では左側が全体に軽度の萎縮を示したが,著しい脱髄巣はなく,第2例では前頭橋路,錐体路がほとんど完全に脱髄し側頭橋路のみが脱髄をまぬがれていた。橋の左半側萎縮が2例とも認められたが,ことに内側基底細胞群の強い病変が2例に共通する所見で,他の細胞群にも病変をみたが,程度は前記の部より軽く,限局性を認めえなかった。橋小脳結合系の中では,右橋腕の萎縮がもつとも強く,結合腕,索状体の萎縮は軽度であつた。
小脳半球皮質の萎縮は,その背面がもっとも強く,第1例では右半球皮質全般に拡つていたが,第2例では後四角小葉内側部を中心とした比較的限局した萎縮巣を示した。虫部には2例ともに病変を認めず,歯状核萎縮は,第!例のみにみられ第2例では,一部の細胞に慢性病変を認めたにすぎない。左側下オリーブ核の病変は2例のいずれにも認められたが,第1例はきわめて強く,第2例では比較的軽徴であった。
以上の所見に基づいて,交叉性小脳萎縮は主として皮質橋小脳系を介して起こる経線維性変性transnenronale Degenerationによって発現するものと毎えた。しかし,他の経路の関与,その他の要因をまったく否定することはできない。
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