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日本学術会議脳・神経学研究連絡委員会主催〔第27回脳のシンポジウム〕を開催するにあたり,一言ご挨拶申し上げます。本シンポジウムは,日進月歩の勢いで進歩する神経学の,年ごとに広がってゆくその研究領域からいくつかのテーマを選び,その分野の泰斗にご講演いただくというユニークな形式で長年にわたって続けられております。私のような脳外科医はとかく専門分野に引きこもりがちでありますが,このようなシンポジウムは,広大な神経科学の,他の分野において成し遂げられている進歩にも眼を向ける機会を提供してくれるという点で,誠に意義深いものであります。今回の〔脳のシンポジウム〕のお世話をさせていただくことになりましたことは,この上なく光栄に存ずる次第でありますが,一方では,私自身がほとんど知らない領域から興味深いテーマをどのように選択するかに苦慮したことも事実であります。しかし,幸いにして,小暮久也,清水孝雄,金澤一郎,山内俊雄の各教授からの全面的なご協力をいただいて,なんとかプログラムを作り上げることができました。司会の労をとっていただいた諸先生,また快く講演を引き受けて下さった諸先生方に心からお礼申し上げる次第であります。
さて,第1日には,今までの〔脳のシンポジウム〕ではあまり取り上げられる機会のなかった脳虚血における血流調節,またアラキドン酸カスケードと神経機能との関連についてご講演いただきます。血管障害による脳損傷を如何に軽減,抑制するかというきわめて重要な臨床的課題に対する取り組みに,これらの分野における最新の知見が,一層の刺激を与えてくれることを期待したいと思います。第2日は,〔ミトコンドリア・サイトパチー研究の進歩〕と〔生体リズム障害の臨床〕について勉強します。前者はまさに時代の華ともいうぺき分子生物学の最先端をゆく研究であり,一方,後者は正統的な精神科学の最近の発展を示すものであります。これらは一見何の脈絡もないかのように思えますが,実のところは一つのコインの表と裏を違った方向から見ているだけにすぎません。人間の精神現象の解明が神経科学の究極の目的であるとするならば,現在の神経科学が全体としてその目的にどれほど迫りつつあるのかを,これら二つのセクションの対比によって窺い知ることができるのではないかと期待されます。このようなスリリングな企ても本シンポジウムならではのことですが,果たして目論見通りの成果があげられるかどうか,ともかく,皆様のご協力によって活発なご意見の交換が行われ,今まで通りの意義深いシンポジウムとなることを心から希望いたしております。
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