Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
ヒト・レトロウイルスの1つであるhuman T-lymphotropic virus type I(HTLV-I)の関与した脊髄症のHAM(HTLV-I-associated myelopathy)に関しては,本誌第31巻5号(1987年10月号)で特集として取り上げられた。しかし,その後の発展はめざましいものがあり,今回ここに「レトロウイルスと神経系」という形で特集がなされた意義はきわめて大きいものがあるといえる。
レトロウイルスはoncovirus,lentivirus,そしてspumivirusの3つのサブファミリーに分類されている。馬の感染性貧血症ウイルス(後にlentivirusに分類)が知られたのが1904年で,最初のoncovirusのRous sarcoma virusの発見が1911年であるから,レトロウイルスの歴史は80年以上になる。レトロウイルスと神経系で最初に注目されたのは,visna-maedi virusによる羊の白質脳症とcaprine arthritis-encephalitis virusによる山羊の白質脳症,ならびに先述の馬感染性貧血症ウイルス(equine infectious anemia virus)による馬の悪性脳炎である。これらはすべてlentivirusに属すが,一方oncovirusに属するmurine leukemia virusも鼠でspongiform polioencephalomyelopathyを起こすことが知られている。これらは,ヒトの多発性硬化症の動物モデルとしても注目されていた。一方,visna virusなどの動物のlentivirus属の中には,中枢神経だけでなく,肺や関節の障害もその主要な徴候の1つになっているものもあり,そういう意味では,本特集でも問題にしているヒト・レトロウイルスにおいて,神経系障害に加えて肺や関節をはじめ全身のいくつかの臓器障害が問題になっていることとの関連からも注目される。
Copyright © 1991, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.