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本総説では,音声言語処理と統語処理に関する,機能的磁気共鳴映像法(fMRI)を用いた研究の成果を紹介する。音声言語処理については,両耳分離聴課題時の皮質活動を検討したところ,一次・二次聴覚野,側頭平面,上側頭回を含む,音声言語刺激によって賦活された複数の領域において,両耳分離聴課題に対する異なる反応を観察した。この結果は,聴覚処理において複数の並列的な経路が存在することを示唆する。また,統語処理については,統語判断課題と言語性短期記憶課題を直接比較することにより,左前頭回下部,および左前頭前野背部において,統語判断課題に対する選択的な活動を観察した。この結果は,言語性短期記憶では説明できない,統語処理に特化した領域が,左前頭前野に局在することを示している。今後,fMRIと他のイメージング技術を併用することにより,大脳皮質におけるダイナミックな言語計算が明らかになることが期待される。
はじめに
神経活動を無侵襲的に可視化する機能イメージング法の開発は,人間の精神機能に対する神経科学的研究に急速な変革をもたらした。特に,機能的磁気共鳴映像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)の発展は目覚ましく,1991年の最初の報告以来現在に至るまで,1年あたりに発表される論文の数は,毎年急速な増加を続けている(Illes et al, 2003)。fMRIの普及に伴って,言語や思考,推論など,これまで神経科学のアプローチが著しく限られていた人間の高次機能が,広い関心を集めるようになった。そのなかでも言語は,人間に固有に備わる能力であり,また,記憶・知覚・意識など,様々なシステムと密接に関係している(Sakai et al, 2001;Sakai et al, 2003)。実際に,社会・文化活動を含めて,人間の知的な営みにおいて,言語の関与が考えられないものは極めて少ない。したがって,言語は,人間の知的活動を理解するうえで鍵となる存在であり,その神経的基盤の解明を目指す「言語の脳科学」は,神経科学に残された最後のフロンティアの一つである(酒井,2002)。本稿では,言語の脳科学にとって,特に重要と思われる研究テーマとして,音声言語処理と統語処理を選び,この二つの分野における最近の機能イメージングの成果を概観する。
We review recent progress in fMRI studies for two topics of language processing:speech recognition and syntactic processing. First, with a dichotic listening task, we showed that auditory language systems may be functionally differentiated into multiple pathways for speech recognition. Second, by contrasting syntactic decision and short-term memory tasks, we found that regions in the left prefrontal cortex are specialized for sentence comprehension. Future fMRI studies together with other imaging methodologies will further clarify dynamic cortical networks for linguistic computations.
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