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科学的根拠に基づいた肝癌診療ガイドライン2005年版を取りまとめた時,化学療法で推奨できる薬剤が1つもないことに改めて驚いた.「化学療法で有効な薬剤は何か?」というリサーチクエスチョンに対する推奨は「肝細胞癌化学療法に科学的根拠に基づいて推奨される有効な薬剤やその組み合わせはない」と明記されており,2007年6月までの文献を網羅的に検索して改訂した2009年版でも一字一句違わぬ推奨となった.つまり,進行肝細胞癌に対してプラセボ対照に対する優越性をランダム化比較試験で示した薬剤が1つもなかったのである.
そして,すべてを変えたのが分子標的薬ソラフェニブの登場であった.2008年にNew England Journal of Medicineに発表されたSHARP studyでは,世界のアジア以外の9か国で600人を超す切除不能進行肝癌症例に対して,ソラフェニブ対プラセボ対照のランダム化比較試験が行われ,平均生存期間を7.9か月から10.7か月に延ばすことが示された.たった2.8か月の生存期間の延長ではあったが,統計学的に有意であり,大げさな表現かもしれないが「人類にとって大きな一歩」の前進であった.ほぼ同時にアジア(台湾,韓国,中国)で行われたいわゆるAsian-Pacific studyでも同様に有意な生存期間の延長が示され,ソラフェニブの有用性はゆるぎないものとなった.わが国でランダム化比較試験は行われていないが,2つのレベル1のエビデンスに基づいて2009年から保険収載され,爆発的に多くの患者さんにソラフェニブが処方されている.わが国ですでに1万人を超える患者にソラフェニブが処方されているようである.
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