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はじめに
大脳皮質と基底核を連関する神経回路は,随意運動,運動学習,強化学習などのさまざまな脳機能を媒介し,この神経回路機能の調節には,中脳腹側領域(黒質緻密部,腹側被蓋野)より線条体,側坐核,前頭前野皮質へ投射するドーパミン系が重要な役割を担っている1-4)。黒質―線条体ドーパミン系の選択的な変性・脱落に起因するパーキンソン病において,著明な運動機能や認知機能の障害が認められ,腹側被蓋野に由来する中脳―辺縁皮質ドーパミン系の機能異常が,統合失調症や注意欠如・多動性障害(attention-deficit hyperactivity disorder:ADHD)などの発達障害の症状にも関係することが知られている。近年,ドーパミン合成を欠損する遺伝子改変マウスを用いた分子遺伝学的研究から,ドーパミンは動物の生後発育期における運動や情動学習に必須の役割を持つことが明らかにされている5,6)。また,ドーパミンの再吸収を媒介するドーパミン輸送体の遺伝子欠損によって,多動性や認知機能の低下が誘導されることが知られており,薬剤への応答性などの観点から,ADHDの動物モデルとして考えられている7-9)。多くの脳機能の制御機構や疾患の病態機構を理解するためには,大脳皮質―基底核回路を制御する神経回路のメカニズムを十分に理解する必要がある。
線条体は,中脳からのドーパミン性入力に加えて大脳皮質からのグルタミン性興奮入力を受け,黒質網様部や脚内核(霊長類では淡蒼球内節)を含む出力核に連絡する10-12)。これらの出力核は,上丘,脚橋被蓋核,視床へ抑制性の線維を投射し,さらに視床からは大脳皮質へのループが形成される。線条体の投射ニューロンはGABA作動性で,2種類の主要な経路に分類される。ひとつは直接路あるいは線条体―黒質路と呼ばれ,モノシナプス性に抑制線維を出力核へ投射する。もうひとつの経路である間接路は,線条体―淡蒼球路を経て,淡蒼球(霊長類では淡蒼球外節)に連結し,淡蒼球から直接あるいは視床下核を介して出力核へ指令を送る。大脳基底核の出力核の活動は,これら2種類の経路からの拮抗的な入力のバランスによって調節されていると考えられている。2種類の投射ニューロンのうち,線条体―黒質ニューロンは主にドーパミンD1受容体(D1R)を含有し,線条体―淡蒼球ニューロンは主にドーパミンD2受容体(D2R)を含有することが知られている13,14)。線条体にはこのほかに,アセチルコリンあるいはGABAを神経伝達物質とする介在ニューロンが存在し,これらの介在ニューロンもグルタミン酸性およびドーパミン性の入力の調節を受ける15,16)。
イムノトキシン細胞標的法は,組換え体蛋白質であるイムノトキシンの性質を利用し,複雑な神経回路から特定のニューロンタイプを誘導的に除去するためのアプローチである17-19)。本法は,中枢および末梢の神経回路から標的ニューロンを除去するために用いられており20-23),大脳皮質―基底核回路を構成するニューロンタイプの生理的役割を明らかにするためにも有効なアプローチを提供する。本稿では,イムノトキシン細胞標的法を用いて2種類の線条体投射ニューロンを除去し,直接路と間節路を介した運動制御の神経回路機構を解析した結果について,概説する。
Abstract
The neural circuit connecting the cerebral cortex and the basal ganglia mediates a variety of brain functions including voluntary movement,motor learning,and reinforcement learning. These functions are dependent on midbrain dopamine systems that innervate the prefrontal cortex and the striatum. The pathogenesis of certain neurological and neuropsychiatric diseases involves the dysfunction of these dopamin systems; some of these diseases include Parkinson's disease,schizophrenia,and attention deficit hyperactivity disorder. To understand the physiology and pathology of brain functions,the mechanisms of neural circuitry that controls behaviors should be studied. Immunotoxin-mediated cell targeting is an approach employed in transgenic animals to eliminated specific neuronal types from a neuronal circuitry. This approach has been used to study the neural circuit mechanism in the central and peripheral nervous systems. Here,we describe the use of immunotoxin-mediated cell targeting for studying the neural circuitry that underlies the motor behavior demonstrated in response to systemic dopamine stimulation; further,we propose the potential mechanism that controls direct and indirect striatal pathway-dependent behavior.
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