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低血糖の長期的な影響についての研究
林野 泰明
1
1京都大学大学院医学研究科 医療疫学
pp.621
発行日 2007年11月15日
Published Date 2007/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1415100752
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DCCTおよびその後の疫学研究の対象となった1型糖尿病患者1,144名を対象に行われたこの研究では,厳格な血糖コントロールに伴う重篤な低血糖が認知機能に及ぼす影響を検討しています.対象者の40%が低血糖性昏睡,もしくは低血糖によるけいれんを経験していました.DCCTの登録時,および18年後に同じ認知機能についてのテストを行い,その変化と重篤な低血糖発作を経験した回数を検討した結果,明らかな関連は認められず,むしろ高血糖のほうが認知機能に悪影響を及ぼしていることがわかりました.
1型糖尿病の患者さんでは,1カ月間に複数回の低血糖が生じるのは珍しいことではありませんが,患者さんによっては血糖コントロールを重視して,低血糖をあまり気にしないこともあります.むしろ,診療する側が心配になり,インスリンの量を減らすように勧めることもあるかもしれません.その理由の一つとして,低血糖が認知機能に与える長期的な影響への不安がなかっただろうか,と自分の診療を振り返ってみました.もしかすると影響していたかもしれません.しかし,この研究の結果により,この低血糖の長期的な影響について筆者が抱いていた漠然とした不安が,根拠のないものであることをはっきりと自覚せざるを得なくなりました.
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