見聞記
第10回国際ガン学会総会(Houston−1970)(Ⅱ)
吉田 修
1
1京都大学医学部泌尿器科
pp.677-679
発行日 1971年8月20日
Published Date 1971/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413201216
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はじめに
恩師稲田務先生は1964年と1966年の2回の欧米出張の記録をまとめて「世界神経旅行」(光村推古書院)という本を上梓された。先生は壺青と号し,俳人としても高名であるが,その独特な文章はすみずみまで神経のゆきとどいた,実に簡明にしてかつ優雅なものである。最近この本を読みかえしてみたがヨーロッパやアメリカの街を小柄な御身体に肩かけバッグとカメラをぶらさげて,ニコニコしながら少し肩を振つて歩いておられる御姿が彷彿として実に楽しかつた。そしてまた,その几帳面なことにもまつたく頭が下つてしまつた。「何月何日何時何分にどこそこを出発して,何時何分に目的地どこそこに着く。天気は晴で凉しい。」といつた詳細にして正確な記録。「ここで2本目のボールペンのインクが切れて,3本目を使用する。」と書いておられる。詳しく色々な事柄を記録されながら旅行されたものと思う。せつかくの御薫陶をうけながら,愚鈍な弟子であつた私はいまだにまともな文章も書けない。もつとも稲田先生のような名文は誰れにでも書けるというものではなく,私ははじめからそんなだいそれた野心はもつていないが……。また,なんでも詳細に記録しておくという習慣も身につけずじまいである。恩師のせつかくの御薫陶を無にしてしまつた天罰がいまここにあたり,この見聞記を書くにあたつて四苦八苦している始末である。
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