書評
「医療事故の舞台裏―25のケースから学ぶ日常診療の心得」―長野展久 著
大野 喜久郎
1
1東京医科歯科大学
pp.417
発行日 2013年5月20日
Published Date 2013/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413103216
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病気を治そうとして,不幸にも医療事故が起こった場合,医師は診療結果に失望し,同時に患者さんや家族との信頼関係が損なわれると,クレームの嵐に晒されることになる。一流の名医といわれる医師でも,人間である限り,医療事故は免れない。そうならないような備えと起こったときにどうするかが重要であり,本書はそのための手がかりを与えてくれる。
まず,本書の「はじめに」を読むと著者が本書を著した意図がよくわかる。医学や医療の問題に深く切り込み,医師および患者の心理学,救急診断学に必要な医学的知識,そして救急診療のヒントなどが読みやすく書かれており,このような本は今までなかったように思う。著者のこれまでの経験に基づく優れた洞察力による研究書でもある。医師側および患者側の両者にとって不幸な事例に対し,何が問題であったのかを丁寧に解説し,同じことが起きないようにとの温かい配慮がなされている。これは著者自身の医師としての長い経験と多くの医療事故の分析に裏打ちされていることによるものと思う。日常診療において研修医だけでなく,経験を積んだ医師も気をつけなければならないことが書かれている。そして,時間外当直での診療,あるいは救急患者の診療には恐ろしい落とし穴がいくつもあるように感じる方も多いと思う。たしかに,思い込みや忙しさからのミスは起こりうるので,いつも念頭に置く必要がある。
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