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女性医師問題が注目されるようになって久しい.わが医局でも8割以上が女性で,夫の転勤,妊娠,育児などに関する問題が頻繁に浮上する.特に育児に関しては,夫も医師で帰宅が遅く,すべてを1人で抱えている女性医師は多い.一方,職場では男女の区別なく医師としての仕事が待っている.女性医師は医師の仕事に加え,専業主婦と同等の役割をこなしているのだ.子供が2人,3人ともなるとこの状況が10年以上続くため,この時期に退職してしまうことが多い.私も2人の娘がいる.長女を妊娠したのは卒後11年目だった.皮膚外科が好きで,仕事人間の私だったが,つわりが激しく最低限の仕事をこなすのが精一杯となった.半年の育休後,病棟長に復職したが,幼い娘はよく熱を出し,保育園からの呼び出しも頻繁であった.やっと仕事が軌道に乗った頃,2人目を妊娠した.手術を続けたくて時短勤務で復職したが,何かが変化したように思えた.後輩から信頼されていないと気づいたとき退職を考えた.「一体仕事とは何であろう」自問自答した.生活のために働く女性医師は多くない.それでも子供を預け,周囲を巻き込み,迷惑をかけながらも続ける意味とは.葛藤のなか,白衣を着て患者の前に立ったときわかった.私はよい医師になりたいのだ.幸いにも私を励まし見守って下さった川島眞教授をはじめ,先輩方のお蔭で仕事を続けることができた.退職騒動後,私は外来長など新しい仕事を引き受けた.時間的に不安があり避けていたが,やってみることにした.当然責任と雑用は増えたが,後輩達から診療や私的な相談を受けることが増え,お互いに理解が深まると仕事がしやすくなった.新しい仕事は新しいやりがいも与えてくれた.長女は11歳になった.子育てに終わりはないが,日々できる仕事は増えている.女性で仕事を持てば十分思うように仕事ができない時期があるかもしれないが,あきらめないでほしい.そして責任のある仕事を長く続けてほしいと思う.責任を伴う仕事はやがて自分のやりがいとなり,自分の居場所を与えてくれるのだ.
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