Derm.2010
IL-8と私
岡 昌宏
1
1神戸大学大学院医学研究科内科系講座皮膚科学分野
pp.69
発行日 2010年4月10日
Published Date 2010/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412102603
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IL-8は好中球遊走能・活性化能,および血管新生能を有するケモカインである.IL-8に興味があるわけではないが,どういうわけか私の皮膚科人生はIL-8とのかかわりが強い.
黒色腫研究を目的とした留学先では私の着任の約半年前から,黒色腫が分泌するサイトカインや増殖因子の意義解明のために,これらを発現させるためのアデノウイルスベクターをラボの人間で分担して作りはじめていた.私は留学先のボスの指示でIL-8のアデノウイルスベクター作成を行うことになった.苦労してベクターを完成させ,黒色腫細胞に感染させてみると,感染前の分泌能の何百倍~何千倍ものIL-8を産生した.当時黒色腫が分泌するIL-8は黒色腫の増殖・転移を亢進させるといわれだしていたので,このベクターを感染させた黒色腫細胞は生体内できっと猛烈に増殖し,また高い転移能を示すだろうと考えた.黒色腫細胞にベクターを感染させSCID(severe combined immunodificiency)マウス皮膚に移植した.ところが,その黒色腫細胞は腫瘍を造るどころか,何日待っても生着した様子がない.移植部位の組織を見て理由がわかった.黒色腫細胞は自らが分泌した多量のIL-8で集積した好中球により破壊されていたのだ.実験の意義を考えると,非常に当惑した.気をとりなおしてベクター量を調節した実験を行い,なんとか論文にはできた.
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