- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
頭頸部悪性腫瘍は癌種が多く,中でも扁平上皮癌が90%近くを占め,Stage Ⅲ,Ⅳの進行癌が半数以上である。年齢別にみると男女ともに60歳代に最も発生頻度が高く(図1),さらに70歳代以上の高齢者が30%近くを占める。Smithら1)は1990年の米国での死亡症例を対象に死因を統計学的に検討している。すなわち,50〜100歳以上の年齢を5歳でとに分けて検索し,加齢が進むにつれて50〜69歳までは癌死の頻度がほぼ40%,80歳は20%,100歳以上になると4%以下になることを報告している(図2)。この結果から超高齢者では発癌を抑制するような遺伝子的背景を推察している。
癌の発生には大きく分けると遺伝的素因と環境素因に大別される。遺伝的素因もいわゆる家族性の遺伝子欠損などの明らかな遺伝子素因を除けば環境因子,特に長期の喫煙,アルコール摂取,食習慣などによって遺伝子異常が誘導される。マウスの免疫能は系の遺伝子素因によって強く規定される。しかしヒトの場合は,もともとの遺伝子素因による免疫能が環境因子によって加齢とともに影響を受ける。一方,個人差はあるものの一般的には加齢によって免疫能が低下することが知られている(immune senesence)。最近の考え方では免疫系は神経系,内分泌系と相互に関連性をもちながら生体の恒常性の維持に重要な役割をもつことが判明している(表1)2)。生体の恒常性を保つ免疫能の低下は高齢者の発癌,易感染性に深く関わる。しかし,老年者の末梢血リンパ球数,皮内反応,PHA幼若比率と死亡率を検討した報告があるが3),死亡率また一部感染症との相関性はあるものの悪性腫瘍との明らかな関連性は見出されていない。これは,末梢血リンパ球数などの簡単な免疫能のみの評価では,十分に高齢者の免疫能を把握できないことによる。免疫担当細胞による自己腫瘍細胞に対する直接の抗腫瘍性,抗腫瘍性に働く細胞の分化,増殖誘導能さらに抗腫瘍性を高めるサイトカインの産生能などを中心に総合的に評価しないと(図3,表2),生体の免疫能は的確に把握できない。現状では生体の真の抗腫瘍性免疫能の評価は不十分で,より簡便で確実な免疫能評価法の開発が待望されている。進行癌患者の免疫能低下の事実としては,末梢血リンパ球数とCD4陽性細胞数の減少,CD4/8比の低下,また抗腫瘍性細胞の免疫能賦活に作用するInterleukin-2(IL-2),Interferon-γ(IFN-γ)などのサイトカイン産生能の低下,さらに免疫担当細胞の細胞障害性の低下が認められている。今回高齢者の免疫能について,特に抗腫瘍免疫を担うT細胞を中心に概説する。
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.