特集 最新の診療NAVI―日常診療必携
Ⅲ.めまい診療NAVI
3.上半規管裂隙症候群
鈴木 光也
1
1東邦大学医療センター佐倉病院耳鼻咽喉科
pp.82-86
発行日 2012年4月30日
Published Date 2012/4/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411102138
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Ⅰ 疾患(症候)についての概説
上半規管裂隙症候群(superior canal dehiscence syndrome)は,上半規管を被っている中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲に骨欠損が生じることによって,瘻孔症状,Tullio現象などさまざまな臨床症状をきたす比較的新しい疾患単位である。上半規管裂隙症候群の報告はそのほとんどが欧米からであり,わが国をはじめとしたアジア諸国では少ない。側頭骨病理標本による観察では,中頭蓋窩天蓋や上錐体洞近傍の上半規管周囲の骨の菲薄化が1.4%に,骨の裂隙が0.5%に確認されている1)。上半規管裂隙症候群の発症には,弓状隆起を被っている骨の先天的菲薄化に続発して生じた天蓋骨の発達異常,外傷,脳脊髄圧や内耳圧の急激な変化,上錐体静脈洞の異常発達に伴った慢性的な圧迫など後天的要因が関係していると考えられている1~3)。上半規管裂隙症候群の瘻孔部分は,内耳において正円窓,卵円窓に次いで第三の窓として働くため,音刺激や圧刺激などの外的刺激によって外リンパ還流に変化が生じて前庭症状が誘発される。迷路瘻孔における代表的な前庭症状にはTullio現象と瘻孔症状がある。本症候群の瘻孔症状やTullio現象は上半規管の刺激によって生じるため特徴的な眼球偏倚がみられる。つまり時計回りまたは反時計回りの回旋成分を含んだ垂直性の眼球運動であり,上半規管が正に刺激された場合には上方へ,負に刺激された場合には下方への眼球の偏倚が誘発される。なおこの眼球偏倚は眼振の緩徐相に一致する。
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