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Ⅰ.はじめに
めまいは,半規管や耳石器,前庭神経の病変を原因とする耳性めまいと,小脳や脳幹,大脳などの病変を原因とする中枢性めまいの2つに大きく分けることができる。耳性めまいは中枢性めまいよりも頻度が高く(5~7倍),難聴や耳鳴,耳閉感などの蝸牛症状が,めまいに随伴することが多い。耳性めまい,中枢性めまいを問わず,これらの中で最も頻度が高いのは,良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)である(めまい疾患の30~40%)。表1に,BPPVの診断基準(日本めまい平衡医学会)を示す。“めまい頭位”と呼ばれるある特定の頭位(洗濯物を干したり取り込もうとしたとき,寝返りをうったとき,靴紐を結ぼうとしたときなど)をとると,回転性あるいは動揺性のめまいが出現し,同時に回旋成分の強い眼振が解発される。めまいと眼振は,めまい頭位で次第に増強し,次いで減弱ないし消失する。また引き続いて同じ頭位をとると,これらは軽くなるか,起こらなくなる。めまい以外に蝸牛症状や中枢神経症状を伴わない,予後良好な疾患である。BPPVは特定の頭位でめまいが認められることから当初は,耳石系(卵形囊,球形囊)の障害であると考えられていた1,2)。Schuknecht3)はBPPV症例の側頭骨標本において後半規管のクプラに,卵形囊の耳石(otoconia)由来と考えられる好塩基性の物質の沈着を認めた。そのためクプラの質量が変化して,頭位の変換による重力方向の変化でクプラが偏位するようになり,眼振やめまいが生じるとする,cupulolithiasis(クプラ結石症)という概念を提唱した。その後Hallら4)は後半規管内に迷入した小耳石片が,体位の変換に伴う重力方向の変化に応じて後半規管の管腔内を移動することによって内リンパ流動が生じその結果,クプラが偏位して,眼振やめまいが生じるとする,canalithiasis(半規管結石症)という概念を提唱した。Parnesら5)は本疾患の治療法の1つである後半規管閉塞術中,後半規管内を移動する小耳石片を手術顕微鏡下に確認したとする報告を行った。これらの報告をきっかけに本疾患の本態は耳石器ではなく後半規管にあることが明らかとなった。
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