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Ⅰ はじめに
肺からの呼気流のエネルギーが発声運動により声帯振動を励起して生成された音声(喉頭原音)は,そこより上方にある咽頭腔,さらに口腔,鼻咽腔を含む声道において,舌,軟口蓋,下顎,口唇を始めとする構音器官の位置や形状の変化に従い,音響学的に修飾を受け,それぞれに特有の音響特性をもつ音波になり,それが『はなしことば』として利用される。同時に,声帯の緊張度合いと喉頭の上下運動による音声のピッチ変化と声門下圧や構音時の圧変化による音の強弱により生成された音に韻律(プロソディ)的な変化が与えられる。この『はなしことば』を生成する末しょう器官による運動を構音(articulation)と呼ぶ。構音運動は,末しょう器官の形態(欠損,再建,奇形)と運動性(麻痺や異常運動,運度速度の異常,運動距離の異常)とともに構音器官同士の協調性に影響を受けるが,その運動過程を支配する神経路(皮質延髄路)と更にそれを修飾する神経路(錐体外路,小脳路など)の障害にも影響される。したがって,結果として発せられた『はなしことば』は,それが生成される過程での障害の結果を反映したものとなる1)。また,結果として発せられた『はなしことば』は,自己の聴覚によってフィードバックされ,的確な『はなしことば』としての制御を受けるため,聴覚系の障害によっても影響を受け得ることにも注意が必要である。したがって,構音障害を評価するうえでは,神経学的所見の確認,聴覚系機能検査を行うことが必須であることはここで明記しておきたい。
なお,音声学,言語学など医学以外の分野では『構音』ではなく,『調音』と表記するが,医学では構音器官の形態や運動性により音がいかに構成されるか,音声学や言語学では生成された音の調子や調べについて検討を行うという点で名称が異なっているのであろうが,『構音障害』に対する臨床ではこの両者の観察と検討が行われるべきであることはいうまでもない。なお,本項では主に成人発症の構音障害に対して,臨床で施行しやすい,また病態を把握し,治療へと結び付く検査について述べる。
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