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I.サリチル酸による耳毒性
サリチル酸のうち一般臨床ではアスピリン(acetylsalicylic acid)が主に使用される。アスピリンは通常小腸上部(および胃)で直ちに吸収され,摂取後2時間以内に血清濃度がピークとなる1)。血清中の半減期は約15分である。アスピリンは全身投与後直ちに蝸牛にも分布する。Ishiiら2)はチタニウムでラベルしたサリチル酸が血管条とらせん靭帯に現れ,1時間以内に外有毛細胞周囲およびらせん神経節周囲に認められたと報告している。血管迷路関門(blood-labyrinth barrier)のため血清と内耳液中の薬剤濃度に時間的ずれがあり,Juhnら3)はアスピリン300mg/kg投与後0.5~1時間以内に血清濃度がピークになったのに対し,外リンパ中の濃度は2時間後にピークに達したとしている。
臨床におけるアスピリン耳毒性の発現は稀である。1,000例中11例の割合(約1%)で生じたとの報告があり,通常long-actingの薬剤でより起こりやすい1),。通常,軽度から中等度の水平型または高音域障害型の感音難聴を両側に生じ,投与中止後1~3日以内に聴力が回復する(図1)4,5)。Myersら5)とBernsteinら6)は6~8g/日のアスピリンを投与された関節リウマチ症例が20~40dBの水平型または高音漸傾型感音難聴をきたし,投与中止後48時間以内に聴力が回復したと報告している。また,血清濃度が15~40.7mg/dlの範囲では難聴の程度と血清濃度に強い相関がみられたという。McCabeら7)は1日4回925mgのアスピリンを投与されたボランティアにおいて,5日間の間に耳鳴と高音障害型の感音難聴が進行したと報告している。また,投与量および投与期間の増加により難聴の程度は増悪したが,投与中止で聴力は正常に回復したという。これらの報告のようにアスピリンによる難聴は通常可逆的であるが,稀に難聴が回復しない例も報告されている8)。動物実験ではサル,モルモット,チンチラ,ネコなどでアスピリン投与による聴力閾値上昇が報告されている。例えば,チンチラでは300mg/kg腹腔内投与後2時間に200mg/kgを皮下投与したところ約30dBのABR閾値上昇が得られている1)。
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