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私は16年前に北大を定年退職してからも,引き続き耳鼻科臨床に従事しているが,そろそろ10年,20年と通ってくるお馴染みの患者さんを治して引退したいと思っていた。その多くは耳漏が出たり止まったりを繰り返し,いろいろな治療法を試みても治らない頑固な感染症であった。それがあるとき雑誌でブロー液を知り,この悩みの大半を解消することができた。その優れた効果について,これまで雑誌や学会で報告したので多くの耳鼻科医がブロー液(Burow's solution)とは何かご存じと思うが一応説明する。ブロー液は,19世紀のドイツのKarl August von Burow(1809~1874)が考案した点耳薬である。13%酢酸アルミニュウム(以下,アルミと略)を主成分とし,強力な殺菌作用と収斂作用がある一方,耳毒性がないので感染性耳疾患のほとんどに使いやすく,かつ著効を示す。カナダのThorpら1)は1998~2000年にかけてブロー液の細菌学的臨床的研究をJ Laryngol Otolに発表した。それによると条件を決めて選んだ56耳の難治性の慢性穿孔性化膿性中耳炎に点耳として使用し,81%が乾燥し90%に有効であったという。われわれはこの成績に驚いて,2000年から液を薬剤部の矢萩君に各国の薬局方を参考にして作ってもらい追試した。私はどうせ19世紀から存在し,薬局方にもあるからと軽い気持ちで長年通っている慢性のお馴染みの患者さんに,暮れ,正月の休みはお宅でこれを自分で点耳してくださいと渡した。新年になり外来で患者さんに会うと,点耳したら痛いのでやめたという人がいる。次に耳の中をみると何と全員ほとんど治っているではないか。これには驚いて,改めて取り組むことにした。これが私のブロー液との最初の出会いである。Thorpらは慢性穿孔性中耳炎だけにしか使ってないが,われわれはその他の感染性耳疾患に使ってさらに著明な効果を得た。しかし,独断に陥ってはならないと考え,わが国の耳科学の大家とされている親しい先生方に送って試して貰うことにした。その結果も優秀な成績であり,中にはさすが慎重に塗布のみで使う方もいて,なるほどと反省した。その後,症例を重ねて日耳鼻会報に投稿したり2),日耳鼻総会(東京)や専門医講習会3)などで報告し,全国からの求めに応じて見本を差し上げたり,作り方や使い方をお知らせし4),その耳鼻科医や施設は約70に達した。
これらの大半は劇的な効果があったとの感想で,魔法の薬とか最もexcitingな点耳薬であるとか,この次の受診が楽しみだなどの評価を頂いた。ついでに適応として,1)慢性中耳炎,2)中耳手術術後症,3)慢性外耳道炎,4)外耳道湿疹,5)外耳道真菌症,6)慢性肉芽性鼓膜炎に試み,1),2)は約80%,3)~6)はほぼ100%治癒し,MRSA,緑膿菌,真菌にも効果がある。
これからが本題であるが,ブロー液について調べてみると次々と不思議なことや疑問が浮かんでくる。これを紹介して皆さんの興味を引き,かつご存じのことがあれば教えて頂きたいと思う。
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