オキュラーサーフェスと私
角膜ヘルペスの贈りもの
大橋 裕一
1
1愛媛大学医学部眼科学教室
pp.134
発行日 1997年10月20日
Published Date 1997/10/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410905618
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オキュラーサーフェス(ocular surface)という言葉が,眼科医の間で常識のように使われるようになったのはごく最近のことである。もしこれを「角結膜上皮」という言葉に置き換えさせていただけるのなら,オキュラーサーフェスというものの存在を実感したのは角膜ヘルペスが全盛の,今から20年も前の話である。ここはアルカリ・酸腐食などをまず頭に浮かべるべきなのかも知れないが,これも角膜感染症をライフワークとしてきた筆者の生い立ちのせいである。どうかご容赦願いたい。
さて,筆者が入局した頃,角膜ヘルペスは主要失明原因の一つであった。再発を繰り返す実質炎による瘢痕形成が大部分とはいえ,角膜潰瘍から角膜穿孔へと至るケースも1か月に1人を下回らなかったと記憶している。角膜ヘルペスといえば,樹枝状角膜炎,地図状角膜炎,円板状角膜炎などの病型がつとに有名である。しかし,治療中に生じる臨床像は極めて多彩であり,種々の角結膜の異常がそこに含まれる。栄養障害性角膜潰瘍や遷延性角膜上皮欠損などはそうした範疇に属する病態であるが,当時は「メタヘルペス」などとも呼ばれ,角膜ヘルペスの亜型として理解されていたふしもある。角膜ヘルペス患者に奇妙な線状上皮病変が時にみられること,そうした例では角膜周辺部の血管侵入や結膜嚢の短縮,あるいは涙点閉鎖などを伴っていることが多いという感覚を筆者自身も持ってはいたが,まだ駆け出しの眼科医である筆者にとって,これらがオキュラーサーフェスのターンオーバー障害を意味していることを理解するのは少し困難だったようである。
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