私の経験
アメリカ便り(第1信)—12月16日 ワシントンにて
神鳥 文雄
1
1烏取大学眼科教室
pp.450-451
発行日 1954年3月15日
Published Date 1954/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410201824
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9月13日,待ち詑びていたアメリカ政府のフルブライトawardが漸く来た。15日上京し,公用出張のパスポートを文部省に,ヴイサは神戸領事館にて受け取り,惶しい旅を続けて23日氷川丸に乘船し,同行22名の1員となつた。雨中の出航をなした興奮は未だに忘れることが出来ない。それより濃霧にとざされた北海(アルユーシヤン沖を通過)の大圏コースにて10月6日シヤトルに到着,南下してロスアンゼルスの叔父を訪れ,南部諸州を横断してシカゴに立寄り,10月16日夕闇迫る頃ワシントンのユニオン・ステイシヨンに孤影悄然と降り立つてよりはや2カ月になる。すつかりよいワシントン児になりすましている。ワシントンはアメリカで9番目の都市で人口100万人です。其の内の40%が黑人で占めています。石と,煉瓦と,コンクリートとて築かれた森の都で靜かな官術町であります。道路よ整然としていて,交叉点はCircle又はSquareを作つて,四方八方に連り,交通の輻輳を防いでいます。街路名は州名と,アルハベツトと,数字との三者で構成され,甚だ便利です。殊に有意義なのは州名を冠した街路は,知らず知らずに州名を覚えることです。ニユーヨークのように岩盤でないので,大厦高樓はありませんが,近代建築の粹を集めた美術館,大きな官衙,キヤピトール,ホワイトハウス,記念碑,記念館,博物館等々沢山あつて,交叉点は申すに及ばず,処々に銅像の多いことは驚異の限りです。
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