やさしい目で きびしい目で・138
私のお手本
五藤 智子
1,2
1鷹の子病院
2愛媛大学
pp.959
発行日 2011年6月15日
Published Date 2011/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410103712
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私は愛媛県の山の中の小さな町で生まれ,高校までそこで育ちました。実家は貧しい自営業でしたから,父も母も忙しく働いていました。母は隣り町からお嫁に来たその日から,やったこともない家業を手伝い覚え,すべてを家に捧げて子供を3人育て上げました。母は自分のことを自慢することは一度もありませんが,母の実家に行くと母がとても優秀で運動でも頭角を現すような活発な女性であったと自然に知ることになりました。当時は女性が進学することはなく,地元に就職してお見合いで父と結婚したのです。
思春期の私は,決して恵まれているとは言えない,生活の中で埋もれているようにみえた母にやりきれず腹を立てていました。母のような聡明な人が,父に怒鳴られたり,近所の奥さまに嫌味を言われたり……,それでも言い返すこともなくいつでも何もなかったかのようにカラカラと笑っている母が,理解できませんでした。プライドがないように思えていたのです。今自分が一人の女性として,家庭をもち仕事もし,多くの人と関わり生きてきて,母がどんなに素晴らしい女性であったか,自分がその足元にも及ばないことを思い知らされます。
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