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解剖学の中でも神経解剖は難しく,わかりづらいと言われることが多い。その理由の1つに三次元的な脳神経系を二次元的な書物で説明していることが考えられる。また,解剖のみの記述であれば,臨床医にとっては日常診療と関係づけにくく,その興味も薄れてしまう。もとより海外の教科書には図のきれいなものがたくさんある。しかし,これまでのものは古くからの解剖学のものを踏襲するものが多く,新しさは感じられなかった。また,1つの図で多くのものを説明するため,結局焦点が定まらなくなり,理解しにくくなってしまうことがしばしば見受けられた。多くの解剖学の教科書を見れば見るほど,図の美しさ以外には大きな感動はなくなってしまっていたのである。本書はこれらの問題を見事に解決したといえるであろう。
本書の特色としては,図の美しさは当然のことながら,三次元的な理解の助けとなるわかりやすい図が,髄液や静脈系など従来あまり深く述べられていなかったところまで含めて,たくさん盛り込まれている点である。これらの多くは従来の神経解剖書では見たことがないもので,新しい視点から描かれている。そして,それらは解剖学を越え,生理学,組織学,発生学,病理学などにまで及んでいる。また,局所解剖や局所診断など臨床においても必要な事項を,多くのイラストや表を用いてわかりやすく解説しており,その内容は神経内科や脳神経外科の専門医をも満足させるほどのものである。さらによいことには,理解を助けるために1つの図の中で多くの事項を説明することを避けている。必要なら同じ図を何度も使い,テーマごとに別々に説明していくなど,読みすすめていくうちに,あたかも大学での講義を聴いているような錯覚に陥る。しかも,それぞれの項目が見開きで整理され,非常に見やすい。これほど多くの図を取り入れながら,図ごとに簡潔かつ適切な説明文も添えられており,アトラスと教科書のいずれの役割をも十分に果たしている贅沢な書である。
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