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6時虹彩切除
1978年9月から約1年ドイツはエッセン大学へ留学する機会を持った。そのとき,Machemer教授の愛弟子の1人Dr. Laquaから硝子体手術を学んだが,ちょうどその頃ヨーロッパでもオキュトームによるthree port systemが普及し始めており,難治性網膜剝離や増殖性硝子体網膜症,増殖糖尿病網膜症なども硝子体手術の対象疾患に加わってきていた。眼内レーザー装置がいまだ開発されていなかった当時では,眼内・外からの冷凍処置とガスタンポナーデのみでは重症例の治癒率はあまり高くはなかったと思われた。そんななかオランダはロッテルダムのDr. Zivojnovicは,硝子体手術後の眼内タンポナーデ物質としてシリコーンオイルを使用し好成績を上げているらしいとの話を,私と同じ時期にDr. Zivojnovicと同郷のユーゴスラヴィアから来ていた留学生に聞いた。そして彼に誘われ,オランダのロッテルダムへDr. Zivojnovicの硝子体手術を見に出かけた。彼の素晴らしい手術とシリコーンオイル注入下の術後写真をたくさん見せてもらった。その後,帰国前に再度ロッテルダムを訪れ,さらにDr. Zivojnovicの勧めで,彼のシリコーンオイルの師に当たるケンブリッジのDr. Scottを尋ね,約1週間滞在して手術を見学し,いろいろ話を聞いた。
帰国前にはDr. Laquaから網膜剝離や増殖性変化のある症例には当分手を出すなと強く指示されていたが,いざ帰国してみると重症の増殖糖尿病網膜症症例や増殖性硝子体網膜症症例が多く,手術せざるをえない状態であった。眼内レーザー装置もまだない時代に,硝子体手術初心者がこのような難症例に手を出せたのは,シリコーンオイルについてのある程度の知識を持ち帰っていたためである。こんな折,他院で一度手術をして再発した外傷性網膜剝離の症例が紹介されてきた。水晶体は既に除去されて無水晶体の状態であり,12時方向には虹彩切除がされていた。硝子体切除を行い,裂孔の部には経強膜冷凍処置を行い,シリコーンオイルを注入して手術を終えた。翌日の回診時,患者は眼痛を訴えていた。診察するとシリコーンオイルが前房に出ていて,眼圧も高い。シリコーンオイルを入れ過ぎてしまったのかと思い,緊急処置としてシリコーンオイルを少し抜去し,眼圧を下げた。
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