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わが国の女性の平均寿命は87歳を越え,加速度的に高齢化が進行している.超高齢社会を迎えて,閉経後の高齢女性の「Successful Aging」を目的とした「アンチエイジング」は産婦人科診療において重要課題である.これまで婦人科腫瘍学,生殖・内分泌学(不妊・不育症),周産期医学の3つの分野が産婦人科のメインテーマ,サブスペシャリティとして確立されてきたが,特に高齢女性のQOLにかかわる骨盤底疾病の診断,治療に関する認知度はいまだ低いと言わざるをえない.高齢女性が80歳までに骨盤底臓器の機能異常(骨盤底疾患)のために医学的治療を受ける頻度は11%とされる.米国では尿失禁に年間20億ドルが消費され,そのほとんどは尿漏れ用のパッドや大人のおむつに消費されているのが現状である.これらの患者の90%は医学的介入によって改善または治癒させることが可能であり,女性医学に携わる医師にとって女性骨盤底疾患の知識は非常に大切である.
骨盤底疾患(pelvic floor disorders)とは,類腫瘍としての子宮内膜症を含む婦人科腫瘍学,不妊・不育症関連の疾病,妊娠・分娩時の異常,感染症関連の急性疾患を除いた慢性の骨盤底臓器の疾患群と定義される.代表的な疾患として骨盤臓器脱,下部尿路症状,排便機能障害などのウロギネコロジー疾患が大部分を占めるが,原因特定が困難な慢性骨盤痛,外陰痛,性器瘻も女性のQOLを低下させ,悩んでいる女性も多い.産婦人科診療の中でも骨盤底疾患の主訴で受診される患者さんも増加している.産婦人科医は子宮脱などの骨盤臓器脱には積極的にかかわってきたが,付随する下部尿路症状や直腸肛門症状に対しては泌尿器科医や直腸外科医などに紹介することが多いのが現状である.複雑な泌尿器系,下部消化管系の異常を除けば,産婦人科医も十分対応が可能な疾病も多く含まれている.
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