ヒューマンバイオロジー--臨床への展開 流産
流産の免疫学的問題
津端 捷夫
1
,
中村 陽行
1
,
川口 英祐
1
,
塚原 裕
1
,
平田 善康
1
,
高木 繁夫
1
Katsuo Tsubata
1
1日本大学医学部産科婦人科学教室
pp.83-90
発行日 1985年2月10日
Published Date 1985/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207121
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妊娠は,Medawar1),Billinghamら2)が指摘したように,自然に起こる移植の成立であり,胎児胎盤系は半非自己の同種移植片と考えられ,これが宿主としての母体より免疫学的に拒絶されることなく10カ月間維持されるものである。そして,移植免疫学的に奇異な現象である妊娠に対し,母児両面より種々の研究がなされて来た結果,子宮が免疫学的に特殊な部位であり拒絶反応を示さないといった仮説は否定され,今日では,母体免疫能はホルモンなどの非特異的抑制因子により量的質的に若干の変化を受けるものの,抗原性を有する胎児側に対し免疫学的反応を起こしていることが明らかであり,これによる拒絶反応を阻止する免疫学的妊娠維持機構も解明されつつある。すなわち,正常妊娠は母児間の免疫学的抗争のバランスが保たれた結果であり,一方,流産はこれら妊娠維持機構の破綻現象と解釈される。
子宮奇型,その他臨床的に明らかな原因を除いた流産の多くは,胚細胞の異常(染色体分裂異常)とされ,その免疫学的変化もそれらの結果として説明されて来た。しかし,原因不明の流産の中には,免疫学的妊娠維持機構の障害によるものも含まれると推定される。
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