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Ⅰ.子宮内の音環境
子宮内の音環境がどのような状態であるのか調査するために,筆者は過期妊娠に入ってブジーで陣痛をつける妊婦について,小型マイク(直径5mm,長さ13mm)をブジーの先端につけて子宮内音を録音した。その結果は母体脈拍に一致した著しく低い周波数の振動であって,音というよりむしろ「ゆれ」と考えた方がよい。つまり胎児は常時拍動性のゆれの環境下におかれており,これのみの夜間では予想外に静かなのである。しかしひる間,母体が何か話をしているときは,その伝播音はよく子宮内に入ってくるし,また母体腹壁外での音も,それが90フォン以上になってくると子宮内によく伝わってくる。ただし腹壁の脂肪層,皮膚,子宮筋層などを通ってくるから,高音は著しく減衰して子宮内に入ってくる。その結果子宮内での音環境は表1に示すように母体血流音が30〜100μbarと一番強く,次いで腸雑音20〜μbar,母の話し声10〜20μbar,胎児心音6μbar前後で,このほかに母体近くで発生した音が伝播してくる。この測定方法は図1に示すように母体外で発生した音の近くにマイクをおいてその音をch3で録音した。なおこの母体外音が母体腹壁,子宮壁を通して子宮腔内に伝達されると,ブジーの先につけたマイクで集音され,ch2で録音される。こうしてch2とch3の2つの録音を比較して母体腹壁,子宮壁の音の減衰効果を求めると図2のようになって,高音とくに2,000ヘルツ以上は著しく減衰されてしまう。このことは胎児の聴器が発育してゆく途上において強い高音による障害を防止することとなり,都合よくできている。しかしこの高音も非常に大きな強い音量になるとやはり子宮内へは伝達されるから危険なことであり,この意味からも妊婦は鋭く強い高音は避けるようにしなければならない。図2において300ヘルツ以下が点線になっているのは,この部分が既に血流音の聞えている部分なので,母体外音はこれと重なり,分析することができない。ただ+5dBまで示されているので母体腹壁はよく通過するものと思われる。
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