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はじめに
一般に胎盤機能不全とは,胎児の発育が遅延しているとか,あるいは児が在胎日数に比べて小さいとかいうような児の成熟度より児体重を指標としている場合を意味するほかに,foetal distressというような子宮内での長期,あるいは慢性のhypoxiaによつて起こる症状を,胎盤機能不全に結びつけている人もある(Gruenwald)。すなわちClifford (1954)によつて提唱された胎盤機能不全症候群(placental dysfunction syndrome, PDS)とは,過期産児の中に見られた特有の臨床症状であつて,羊水の減少に伴い,胎脂欠乏による皮膚の乾燥,ひびわれ,き裂,剥離,落屑などの皮膚症状や,胎盤機能低下とそれによる母体栄養素の供給不足に基づく児体重減少や脱水や栄養失調症状,また他方では,酸素欠乏に基づく児のanoxiaの出現,それによる羊水,胎盤,臍帯などのmeco-nium汚染と児の皮膚や爪の着色などが見られるというのであつて,このため児の仮死や死亡率が高いといわれている。このようなPDS例は私たちの調査では,大体6〜16%くらいという大幅な出現頻度であるが,しかし必ずしも低体重児にのみ発現するわけでなくて,3kg以上の児にも多数例あることが判明している、このように,在胎期間と関係なく発現しうるところから,dysmatu-rityという用語でこれを表わす人もある(Sjö-stedt)。
このように胎盤機能不全という語はいろいろな用語でもつて代替されており,しかもその意味づけはしばしば乱用されている感があつて,きわめて混乱しやすい言葉ともいえる。しかも胎盤機能を知る検査法としては,これまた実に多数に上るが,確定したものが少なく,機能不全をきめる定義を明確に下しえない実状といえようが,しかし以上述べたような解釈からすれば,胎盤機能不全とはintrauterine fetal growth retardation (IUGR),"small for dates"syndrome,そしてGruenwaldのいうようなplacental insufficiencyなどといういろいろの意味を含んでいると考えられる。したがつて,私たちの述べているように,胎盤機能不全の成因としては,母体側,胎児側,それに胎盤そのものの三つの側からの検討が必要となろう。たとえば母体側の因子としては,妊娠中毒症や高血圧や子宮内の環境を変えるような因子などが関係する。あるいは母体の栄養摂取の低下も児の体重減少に影響しうるであろう。次に胎盤側の因子としては,形態異常や胎盤膜の機能や子宮胎盤循環などの障害が起因すると考えられるし,胎児側の因子としては,臓器の奇形とか染色体異常などか関係する。そこで,これらの中から現在胎盤機能不全という場合に,主として対象となる機能病理学的な面,あるいは機能代謝面,および内分泌の面からの諸項目を取上げて検討してみたい。
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