Japanese
English
薬剤の臨床
主として開腹手術後の咳,痰に対するMercotinの使用経験
Use of "Mercotin" mainly for postoperative coughing
辻 啓
1
Akira Tsuji
1
1東京大学医学部産科婦人科学教室
pp.745-750
発行日 1960年8月10日
Published Date 1960/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409202259
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Ⅰ.緒言
従来産婦人科領域における手術として,子宮癌,子宮筋腫,卵巣嚢腫,子宮外妊娠等の開腹手術が広く行われているが,術後悩まされるものに患者の咳,痰がある。われわれの教室で原則として子宮癌手術の全例及び,Riskの良好でないその他の手術に際して行なう気管内挿管吸入麻酔後に,特に咳,痰の訴えが多い様である。麻酔薬として気道刺戟性の強いエーテルを用いた時には,術後咳,痰の多いのは当然であるが,気道刺戟性の弱いと言われる笑気を用いた場合でも,挿管時多少の,気管,喉頭,声帯等の機械的刺戟或いは損傷を,避ける事はむつかしく,術後咳,痰の訴えは意外に多く臨床上経験するものである。咳或いは痰を喀出せんとする試みは多少とも腹圧即ち腹筋の収縮作用を必要とする。しかるに開腹術後は腹部手術瘡は安静に保つべきであり,極端な場合には,縫合部の離解,手術瘡の出血も招きかねない。又患者にとつても開腹術後の咳は非常なる手術瘡部の疼痛を伴い,受持医はその対策に頭を悩ます事が多い。特に術後排ガス迄は飲食は禁忌とされているので鎮咳注射薬でもあればと思つていたが,そういつたものは極めて少なく当教室においてもほとんど使用していないのが実情であつた。
たまたま燐酸コデインに優るとも劣らぬ効力を持ち,便秘,習慣性,中毒等の副作用のないという鎮咳剤メルコチンを使用する機会を得,いささかの知見を得たので報告する。
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