原著
妊娠月齡に對する血液諸性状の動搖とその幅に關する觀察(第III報)—妊娠各月齡に於ける全血比重(GB),及び血清比重(GS)の變動に就いて
織田 利彦
1,2
1東京醫科齒科大學生化學教室
2東京鐵道病院産科婦人科部
pp.257-263
発行日 1953年5月10日
Published Date 1953/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200827
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I 緒論
著者は妊娠各月齢及び産褥各週齡に於ける血液諸性状の變動に興味を持ち,それらの性状が妊娠という生物學的變化に伴いその初期より分娩に到る迄或は産褥に於て,如何に推移するかを二つの方向より觀察しようとした。
即ちその一つはこれらの各觀測値のそれぞれの絶對値が妊娠月齢を追い,又産褥週齡に従つて如何に推移し,如何に恢復するかを見ようとする方向であつて,即ちこれを統計的に老えれば妊娠及び産褥の各観測値群に就いての主として「平均値」の概念によつて代表せしめ得る群の特徴(以下本論文に於てこの特徴を「平均値」と略稱す)の推移の観察と云うことと同意義であるが,他の一つ方向はこれらの各観測値群に於けるその分散の幅の観察であつて,従來多くのこの種の實驗に於ては観測値各群の「平均値」の推移が問題とされ,論じられて來たにも拘わらず,その分散の幅の變動に關しては未だあまり生物學の對照としては廣く観察されなかつたといううらみがある。そもそも一般生物學に於てそれらの諸反應の實測値の持つ意義は,一方に於て,それらの一群の観測値の「平均値」が重要であると同時にその反面に於てそれらの實測値が表わす個人差の幅,即ち分散の幅こそは或る變化に對する各個體の對應の複雑さを現わす量として採り上げらるべきであり,更に語を變えて云えば今各個體が同じ種類の同じ程度の刺戟を蒙つた結果として現わす。
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