特集 受胎調節・人工妊娠中絶及優生手術
人工受精
山口 哲
1
1慶應義塾大學醫學部産婦人科學教室
pp.151-156
発行日 1949年4月10日
Published Date 1949/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200195
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1.緒言と歴史
敗戰下の日本に於て現在社會的にも國家的に見ても最も切實な問題は受胎調節であるが,一方子供の無い夫婦の數は生活困離の爲の晩婚,心身過勞等のため,漸増の傾向にある。アメリカに於ては全結婚者の約12%がこの惱を持つてゐるが,日本でも略同樣の割合にあると思はれる。事實慶應義塾大學病院産婦人科を訪ずれる患者の約13.6%は不妊症を主訴としてゐる。また子供を望む夫婦の訴は受胎調節を望む人々の訴へに比し,より熱烈であり眞劍であつて,この解決は産婦人科醫に課せられた重大な職責の一であると思はれる。この不妊症征服の積極的な手段が人工受精であつて,古來幾多の婦人科醫に依つて熱心に試みられて來たものである。
人間の人工受精に先だつて,動物の人工受精が行なはれた。Gautierの報するところによれば,アラビアでは14世紀に既に牝馬の人工受精が可能であると豫想されてゐた。然し,實際上初めて人工受精に成功したのは魚に行はれたもので,18世紀の初頭であつた。
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