感想及び随筆
漫談
高橋 毅一郞
pp.78-81
発行日 1946年7月20日
Published Date 1946/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200081
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埋草にするから何か與太れと主幹の嚴命である。人もあらふに耄碌した小生にこんな重荷を背負せるなんて,主幹もあんまり罪な人だと愚痴つてみても到底主幹には頭があがらない。この御時節に下らない紙面を汚がす怪しからんと義憤の方は,どうか主幹に文句を持ち込まれたい。小生のせいでは無いんだから。
主幹の嚴命を承つたとき,小生はふつと昔のさる名醫の話を思ひ出した。さる名醫が診療の機械藥品を荷物と積み込んで,海を渡つて旅をした。とやつて來た一陣の疾風,見る見る一天黒雲蔽ひ大暴風雨となつて船は木の葉の如く翻弄,やがて巖石に打つけられてみるも無慘に沈みはてた。名醫は不思議に命助かつて,たつた1人そこの濱邊へ打上げられた。息も絶え絶え暫くは茫然としてをつたが,やがて己に歸ると,名醫はほど久しく思に沈んでをつたが,やがてはたと膝を打ち眼を輝かしていつた。『ウン,これで俺も醫者一人前になれる。』
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